夜間頻尿のお話
泌尿器科の外来を受診される患者様の多くは高齢者であり、「夜間頻尿」に悩まれている方はとても多いです。たとえ訴えが無くても「歳なのだから仕方ない」と我慢している方も多いのでは無いでしょうか。夜間頻尿の訴えには個人差はありますが、共通点が多いのは「いつも決まった時間に目が覚める」「寝てから2時間毎に尿意で目が覚める」「一晩に3回以上起きる」という事です。
夜間頻尿の原因は多岐にわたりますが、特に男性の場合は「前立腺肥大症」にまつわる下部尿路閉塞疾患の存在がまずベースとしてあります。膀胱に溜まった尿は前立腺部尿道を通過して排出されますが、その前立腺部尿道が狭窄(きょうさく)するために、うまく排尿できない病態です。慢性的な残尿によって、機能的膀胱容量が減少することに加え、加齢に伴い膀胱平滑筋成分が減少し、結合組織成分に置き換わることで「伸び縮みしにくい、硬く、小さな膀胱」にもなってきてしまいます。
これを防ぐには、まず「下部尿路閉塞の解除」が肝要で、泌尿器科による問診と触診や画像検査、ウロフロー/残尿検査にてまず前立腺肥大の有無/程度を診断します。程度が重度であれば手術加療をお勧めすることとなりますが、大半は投薬治療で軽減できることが多いです。女性の場合は、男性とは異なり前立腺肥大症のような下部尿路閉塞はないため、他の原因を考えます。昼夜問わず、頻尿、切迫尿意などの症状がある場合は、「過活動膀胱」となっている可能性があります。若い時に比べ、尿意を感じてから我慢できる時間が短くなっている場合は、この過活動膀胱の可能性が大きいです。この過活動膀胱も加齢変化の一つですが、投薬治療で症状を緩和することができます。
夜間頻尿の原因で男女問わず高齢者に多いのは、「睡眠障害」とのオーバーラップです。睡眠の深さは、高齢になるにつれ浅くなると言われています。その周期は1.5〜2時間毎に繰り返し訪れ、8時間の睡眠ならば朝までに約4回程度浅い眠り(レム睡眠)が訪れます。この時、膀胱は過敏となっており、尿意を感じて覚醒すると言われています。また、高齢者は常々テレビ番組や新聞広告等の影響で梗塞疾患の予防のために飲水を励行するように指導されている場合が多く、人によっては過剰な水分摂取をおこなっていることも珍しくありません。自分がどれくらいの飲水を行なっているか、一度チェックしてみることも大事です。1日に約25ml/kg以上の飲水は過剰とも言えるため、下肢の著しいむくみが見られる場合や夜間尿量が1日尿量の1/2を超える時は水分摂取を少し控えるか食事の際に多く摂ると良いでしょう。
また、「歩く」ことも大切です。運動不足は下肢の筋力を低下させ、下肢からの血液還流を妨げます。そのため夜間臥床してから下肢からの血液還流が増え、腎血流も増加し、夜間尿量が増えます。朝方の涼しい時などに良く散歩などを行うと良いでしょう。出来ない場合は、足踏み運動や下肢マッサージ、弾性ストッキングの着用も有効です。
若い人でも、夜間頻尿を訴える場合がありますが、カフェイン飲料(コーヒーや紅茶等)の過剰摂取や眠前のアルコール摂取など、生活習慣による原因は多いです。実は睡眠時無呼吸症(いびきや無呼吸)が原因であることもあります。他にも糖尿病や心不全といった重症な疾患が原因となっていることもあるため、「夜間頻尿」という症状は、決して看過できない症状の一つであると言えます。まずは、泌尿器科を受診していただき、お話を聞かせて頂ければ幸いです。